閉店前の受取人
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大学院生の水瀬遥は、アルバイト先の古書店「栞堂」で店番をしていた。店主の神田誠は腰を痛め、朝から二階の部屋で休んでいる。店にいるのは遥と、神田の姪で高校生の美緒だけだった。美緒は値札を替えながら、夕方には「アキラ」という人が青い箱を受け取りに来ると遥へ伝えた。箱は先代店主が残した帳簿らしく、神田は誰にも中を見せないよう念を押していた。
美緒は放課後だけ店を手伝っており、神田を「叔父さん」と呼ぶ。遥は働き始めてまだ一か月で、店の昔の事情までは知らなかった。受取人の名簿にもアキラという名前はなく、青い箱の欄には日付だけが記されていた。
五時すぎ、宅配便の制服を着た青年が現れ、「瀬川です。青い箱を預かる約束でした」と言った。遥が確認をためらうと、美緒は彼を幼なじみの瀬川俊だと紹介した。ただし、受取人の名前はアキラではない。俊は、アキラは自分ではなく、半年前までこの店で働いていた姉の明だと説明した。明は神田と意見が合わず店を辞め、現在は近くの資料館に勤めているという。俊自身は箱を受け取るのではなく、姉が遅れることを伝えに来ただけだった。
その直後、資料館の名札を下げた女性が雨の中から入ってきた。俊が「姉さん」と呼んだので、遥にも彼女が瀬川明だと分かった。明は箱を受け取るためではなく、帳簿を神田へ返しに来たのだと言った。青い箱は明が預けたもので、中には帳簿ではなく、先代店主と神田が写った古い写真が入っているらしい。
美緒は説明を聞くと二階へ上がり、やがて神田を支えて戻ってきた。神田は明に、店を辞めさせるような言い方をしたことを謝り、来月から蔵書の整理を手伝ってほしいと頼んだ。明はすぐには答えなかったが、箱を棚へ戻し、明日また話すと約束した。閉店時、遥は名簿の「アキラ」の横に、受け取りではなく来店予定と書き直した。